ブラスト社の顕微鏡インキュベータは細胞培養に最低限必要な温度とCO2のみ管理する構成です。酸素濃度は管理できないので、必要なときは一般的なインキュベータと同じくパウチに培養容器とともに脱酸素剤を入れて丸ごとインキュベートします。
極低酸素に吸着するのみで濃度制御は出来ないし、パウチは嵩張るし、なんかカッコ悪い。あまりニーズは無かったので手を付けずにいました。
しかしこのところ急に酸素管理のニーズが高まってきました。癌細胞などの嫌気性培養では低酸素or無酸素培養が必須であることは言わずもがなですが、低酸素環境のストレス下では細胞が頑張ってむしろ成長しやすくなる現象が周知され始めたようです。
あれだ、筋トレで負荷ストレスをかけて筋肉の修復過程でバルクアップするのと同じだ。
そこで、以前に気相管理用として作った非加熱チャンバーに脱酸素剤を入れて、培養チャンバーと別室にすることを考えました。
この中では酸素濃度を0.5%まで低下させられます。つまり極低酸素ガスが出来ているわけです。それを培養チャンバーにつなげて循環させると、低酸素・無酸素環境ができるという目論見です。もちろん培養チャンバーを顕微鏡に載せてタイムラプスもできます。
左はオルガノイド灌流培養システム。低酸素3次元培養は重要な位置づけになります。送気ラインの途中に電磁弁を設けてガスをパージさせると、大気と混合して酸素濃度が上がります。閉じると脱酸素剤で低酸素に振れる。仕掛けは非常に単純。
従来の酸素管理インキュベータは大型でとても高価なもの。窒素ガスを充満させて相対的に酸素濃度をさげるので、窒素ガスのランニングコストもばかにならない。それをこんな理科の実験レベルでできたら培養シーンがあっという間に広がります。何で今まで誰もやらなかったのだろう。
やってみてわかりました。ムズい!どれだけシールしてもどこからか漏れて大気が入り込み、酸素濃度が中々下がりません。ガチガチに固めてしまえばいいじゃないかとお思いかもしれませんが、そうしたらアクセス性がガタ落ちで、培地交換しにくくなります。シール性とアクセス性をシンプルな構造で両立されるには、言うほどシンプルじゃないわけです。
でも噂を聞きつけて是非欲しい!買いたい!という声がもう出てきています。うん、売れるなこれは。
ということで、9月の癌学会で商品サンプルを御披露目できるよう頑張ります(市場調査せず社長の勘だけで商品化するお気楽ベンチャー)。